つい先日、お客さんから受けた相談を紹介します。相談の内容は、「某保険会社の担当者から、短期入院でもまとまったお金がもらえる一時金タイプの医療保険を勧められているが、切り替えた方が良いのか?」というものでした。
僕の結論は、この記事のタイトルそのままなんですが、それだと話が終わってしまうので詳しく解説していきますね。
要旨
短期入院の備えは現金でします。むしろ、長期化した時が現金で足りなくなる恐れがあるので、保険の出番なのです。入院日数が短期化している理由を解説しながら、本来の保険の役割をお伝えします。
入院は短期化している
入院の短期化・・・これはデータをみてもそのとおりなんです。入院日数は平成に入ってからどんどん短くなって、厚生労働省の「平成29年(2017)患者調査の概況」では、2017年の平均入院日数は29.3日となりました。
とりわけ、5日以内の短期入院患者の割合は2002年には26.3%だったものが、2014年には34.1%になっています。
入院は平均30日以内で、3人のうち1人は5日以内に退院しているということですね。
入院日数が短期化する理由
入院日数が短期化しているのにはちゃんとした理由があって、主に「医療技術の進歩」と「診療報酬の改定(国の施策)」が要因として考えられます。
医療技術の進歩
内視鏡手術や腹腔鏡手術など、術創が小さく患者の体に負担をかけにくい新しい手術方法が確立されたことで、日帰りや一泊などの短期間で手術ができるようになりました。体への負担が少ないということは手術後の回復期間も短くなるので、ずっと入院していなくても退院して通院治療でフォローアップできるようになったのです。
例えば、最近の不整脈の手術では、胸を切ることなく、カテーテルを太ももの付け根から血管を通じて心臓に挿入して、カテーテルの先端から高周波電流を流して原因部分を焼灼する術式が用いられています(バスケット・カテーテル・アブレーション)。入院期間は、3泊4日ないし4泊5日程度です。
診療報酬の改定
「診療報酬」というのは、健康保険から医療機関に支払われる治療費のことです。 1点につき10円で計算されて、すべての医療行為について点数が決められています。
入院に関しては、患者7人にたいして看護師1人の体制で1日あたり1566点(1万5660円)ですが、入院日数によって下記のような加算があります。
・ 1~14日 450点加算 ⇒ 1日2016点(20,160円)
・15~30日 192点加算 ⇒ 1日1758点(17,580円)
・31~90日 加算なし ⇒ 1日1566点(15,660円)
入院して最初の2週間は、病院にたいして高い診療報酬がつきますが、日数が経過すると徐々に引き下げられて、30日を超えると加算がなくなります。要するに、30日を超えてしまうと病院側としては儲けが少なくなってしまうので、早く退院するように促される仕組みなのです。
以前は逆で、入院が長引くほど病院の利益も増えるようになっていたんですよね。入院日数短期化の理由は、医療技術の進歩もありますが、実際のところはこの報酬改定の方が効いているように思えます。
保険会社の都合
医療保険には「日型」といって、1回の入院で何日まで保障されるのかという規程があります。短いところでは45日型や60日型、長くなると120日型や365日型などがあります。
先ほどわかったように、入院日数が短期化しているのは確かです。それに合わせるように、保険会社の営業担当者は45日型や60日型への切替を勧めてくるのですが、よくよく考えてみる必要があります。
なぜかというと、日型を短くしたところで月々の保険料にそれほど影響はないからです。仮に現在加入している医療保険が120日型だったとして、営業担当者の勧めるがままに60日型に切り替えたとしても、月々の保険料は半分になりません。保障される入院日数は半分になっているのにです!
ましてや、「1泊で10万円受け取れる」などという特約は、その分の保険料が割り増しされているのですよ。
保険の本来の役割
おわかりでしょうか?「入院日数が短期化しているから、医療保険の保障日数も短くしましょう」というのは、保険会社が給付金の支払いを減らしたいからなのです。
そもそも、保険というのは大きな経済的損失に備えるためのものです。たしかに、交通事故で意識不明の状態になり半年以上入院するケースは稀かもしれません。でも、めったに起きないけれど、起きたときのリスクが大きい事にこそ、保険をかけるべきではないでしょうか?
短期入院の備えは現金で
1週間程度の短い入院には、足りない部分は現金で補えば良いと僕は思います。保険で備えるべきは、長期にたいしての入院です。保険会社の方便にうまく乗せられて、肝心の自分の保障まで削ってしまうのは賢い見直し方とはいえません。
まともな営業担当者であれば、わざわざ保障を削るなんてことはしないはずですが、自分の成績のために顧客にデメリットを与える不当な行為が平然とまかり通っているのが保険業界です。あなたも充分に注意しましょうね。
コメントを残す